巻二十三第十八話 尾張の小女の怪力話

巻二十三

巻23第18話 尾張国女取返細畳語 第(十八)

今は昔、聖武天皇の御代、尾張国中島郡(おわりくになかしまのこおり)に尾張久坂利(おわりのくさかり)という者がいました。
この郡の大領(だいりょう・長官)です。
妻は同国愛智郡片輪郷の者で、道場法師の子孫にあたります。
その女は、姿形がなよやかで、あたかも絹糸をよりあわせたようであります。
さて、この女は、麻の目の細かい手織りの布を織って、夫の大領に着せていました。
その布は、この上なく素晴らしいものでした。

当時、この国の国司に若桜部(わかさくらべの)□□という者がいましたが、国司として在任中、この大領の着物が立派で素晴らしいのを見て、それを取り上げ、大領に、
「これは、おまえには似つかわしくない」
と言って、返してやりませんでした。
大領が家に帰ったとき、妻が訊きます。
「あなた、お着物はどうなさったのですか」と。
大領が答えて言うには、
「じつは、国司がこうこう言って、取り上げてしまった」
すると、妻がまた訊きます。
「あなたは、あのお着物を本当に惜しいとお思いですか」
大領が言う。
「非常に惜しい」
妻はこれを聞いて、さっそく国司の屋敷に出かけて行き、
「あのお着物をお返しください」
と、返却を求めましたが、国司は、
「こやつ、どこの女だ。早々に追い出せ」
と命じます。
そこで人が出て来て女を捕え、引っ張ったのですが、びくとも動きません。
このとき、女は二本の指で国司を席に座らせたまま、つまみ上げ、国庁の門外に持ち出して、着物の返却を請いました。
国司はすっかり縮み上がって、着物を返して寄越しました。
女はその着物を取り、すすぎ清めて、もとにしまいました。

この女の力が強いことは、たとえようもありません。
呉竹(くれたけ)を手で押し潰すこと、練糸を手に取るようであります。
そこで、これを見た大領の父母が大領に、
「おまえがこの妻のために国司の恨みを買い、罰を受けることになるかと思うと、本当に恐ろしい。わしらにとっても良くないことだ。だから、この妻を離縁して実家に返してしまえ」
と言います。
大領は父母の言いつけに従って、妻を離縁しました。

それで妻は故郷に帰り、草津川という川の船着き場に行って洗濯をしていると、商人が船に草を積んで、その前を通り過ぎながら、さかんにひやかし、からかい、うるさくて仕方がありません。

草津川(滋賀県)

女はしばらく黙って相手にしないでいましたが、船主の男がなおもからかい続けるので、女は、
「人を馬鹿にするような者は、その頬っつらを思いっきり叩いてやるから」
と言い返しました。
これを聞いた船主の男は船を止め、女を殴りつけました。
女は平然として、手で船の片方を叩きました。
すると船は、船尾の方から水中に没しました。
船主の男は、船着き場あたりの人を雇い、積荷を陸揚げし、また船に乗りました。
そのとき女は、
「わたしに無礼を働いたから、船を沈めてやったのです。なにゆえ、何のゆかりもない者が、わたしを叩いて馬鹿にするのですか」
と言って、荷を載せた船をまた一町(約109メートル)ほど陸に引っ張り上げました。
これを見て船主の男は、女に向かって跪き、
「本当に悪いことをいたしました。ごもっともです」
と言います。
謝ったので、女は許してやりました。

そののち、この女の力がどれくらいか試してみようと、その船を五百人で曳かせましたが、びくともしません。
これで分かります。
この女の力は、五百人の力にまさっていたのだということを。

屋形船(京都市嵐山)

これを見聞きした人びとは不思議に思い、
「前世にどのような因縁があって、現世で女の身でありながら、こんなに力があるのだろう」
と語り合った、とこう語り伝えているということです。

【原文】

巻23第18話 尾張国女取返細畳語 第(十八)
今昔物語集 巻23第18話 尾張国女取返細畳語 第(十八) 今昔、聖武天皇の御代に、尾張国の中島郡に、尾張の玖久利と云ふ者有けり。其の郡の大領也。妻は同国の愛智の郡、片輪の郷の人也。此れ道場法師の孫也。其の女、形ち柔需

【翻訳】 柳瀬照美

【校正】 柳瀬照美・草野真一

【解説】 柳瀬照美

本話の出典は、『日本霊異記』中巻第二十七「力女、強力を示す縁」より。前話に登場した尾張の女の強力譚である。

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【参考文献】
小学館 日本古典文学全集23『今昔物語集三』

【協力】ゆかり・草野真一

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