巻26第15話 能登国掘鉄者行佐渡国掘金語 第十五
今は昔、能登国(石川県)は、鉄(くろがね)の䥫(すがね、鉱石)を採掘し、国司におさめていました。
六人組の採掘者があって、長(おさ)が仲間に話しました。
「佐渡の国(新潟県佐渡市)には金の花が咲いているところがあるんだ」
これが守(国司)の耳に入りました。守は長を呼び、ほうびを与えて問いました。長は言いました。
「佐渡の国には金がとれる場所があるのでしょうか。そう見えるところがあったので、仲間うちで話していたのを、お聞きおよびになったのでしょう」
「ならば、そのありそうなところに行って、取ってきてくれないか」
「仰せとあらば行ってきましょう」
「何か必要なものはあるか」
「人夫は必要ございません。小船を一艘と、食糧をすこしいただければ、佐渡に渡って、掘れるかどうか試してみましょう」
守は言うとおりに誰にも言わず、船一艘と食糧をとらせました。長はこれを得て、佐渡の国に渡っていきました。
それから二十日か一か月ほどたって、守が忘れたころ、とつぜん長がやってきました。守は当初、人の多いところにおりましたが、事情を察知して、人づてには聞かず、誰もいないところでみずから会いました。長は黒っぽい布に包んだものを守の袖の上に置きました。守はそれを重そうに抱えて奥に入りました。
その後、長はいなくなって、行方がわからなくなりました。守は人を出して東西に探させましたが、ついに見つかりませんでした。なぜいなくなったのか、理由はわかりませんでした。「金のありかを問われると思ったのだろう」と疑いました。金は千両(約18㎏)あったと伝えられています。
「佐渡の国で金は採掘できる」と能登の国(石川県)の人は語ります。長はおそらく、その後も掘ったことでしょう。しかし、行方はついにわからなかったと語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 草野真一
【解説】 草野真一
『宇治拾遺物語』にほぼ同じ話がある。
現在、佐渡島は新潟県に属しており、新潟市からフェリーが出航している。それが現在のルートであるわけだが、昔は日本海側ならどこでもよかったので、この話は能登から船を出している。
佐渡で金が採掘できることは、かなり昔から知られていたらしく、この話はもっとも古い例である。佐渡金山は1989年まで採掘が続けられていたが、現在は休山となっている。2024年、世界遺産への登録が決定した。
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