巻3第22話 盧至長者語 第(廿二)
今は昔、天竺(インド)に一人の長者がありました。盧至(るし)といいます。慳貪(けち)の心が深く、妻の親戚や従者にも、かぎりなく惜しみました。
「ただひとり、人がいない静かなところで、思うまま飲食しよう」
そう思っていると、鳥獣が自然に集まってきました。長者はこれを嫌い、ほかに移りました。
人も無く鳥獣も来ないところを見つけ、飲食しました。長者の歓楽はかぎりなく、歌い舞い踊りました。
我今節慶際(私は今がお祭りだ)
縦酒大歓楽(酒はたくさんある。よろこびでいっぱいだ)
踰過毗沙門(毘沙門天など足蹴にして)
亦勝天帝釈(帝釈天など気にするものか)
そう誦し、瓶を蹴って舞い喜びました。
そのとき、帝釈天(インドラ)は仏(釈尊)の御許へ詣でようとしていました。盧至長者のあざける声を聞いて怒り、困らせてやることにしました。身を変じ、盧至のすがたになって、盧至の家に行き、庫倉を開いて財宝をすべて取り出し、十方(八方+上下)の人々に声をかけ、与えてしまいました。
家の妻子や使用人は(急に気前がよくなった主人を見て)「おかしなこともあるものだ」と思いました。そのとき、ほんものの盧至が帰ってきて門をたたきました。見てみると、家にいる盧至とまったく同じすがたの人がいます。
「妖怪変化にちがいない」と考え、そう言うと「私はほんものの盧至である」と答えました。
家にいた盧至と帰ってきた盧至、どちらがほんものなのか、誰にもわかりませんでした。
鑑定人をたてて判じさせることになりました。鑑定人は盧至の妻子に向かって、二人の真贋を問いました。妻子は帝釈天が変じた盧至を指さし、「こちらがほんものです」と言いました。
これは国王に伝えられました。国王は二人の盧至を召し、比べてみましたが、同じすがたの盧至が二人あって、真贋などまったくわかりません。国王は見きわめるため、二人の盧至とともに、仏(釈尊)の御許に参ることにしました。
そのとき、帝釈天はもとのすがたに戻り、仏に盧至長者の過ちを述べました。仏は盧至に仏法を勧め、法を説きました。長者は法を聞き、道を得て、歓喜したと語り伝えられています。

【原文】
【翻訳】 草野真一
【解説】 草野真一
宇治拾遺物語に同じ話がある。










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