巻五第三十話 女の甘い声を聞き力を失った仙人の話

巻五(全)

巻5第30話 天帝釈夫人舎脂音聞仙人語 第三十

今は昔、帝釈天(インドラ神)には舎脂(しゃし、シャチー)夫人という妻がありました。毗摩質多羅(びましったら)阿修羅王の娘です。釈尊がご誕生される前、ひとりの仙人がありました。名を提婆那延(だいばなえん)といいます。帝釈は常にその仙人のもとを訪れ、仏法を習っていました。

アイラーヴァタ(神象)に乗る左がシャチー、右がインドラ。

 舎脂夫人は思いました。
「帝釈は本当に仏法を習っているのかしら。他の女と会っているのではないかしら」
夫人はひそかに帝釈の後ろに隠れてついていきました。帝釈は本当に仙人の前にすわっていました。

帝釈は夫人がついてきたのを知り、怒っていいました。
「仙の法は、女人に見せたり聞かせたりしてはならないものだ。早く帰りなさい」
蓮の茎で舎脂夫人を打ちました。

舎脂夫人は甘えた声を出して帝釈と戯れました。そのとき、仙人、夫人の媚びをふくんだ声を聞いてしまいました。仙人の心は穢れ、神通力は失われ、ただの人になってしまいました。

女人は仙の法のために、大いなる障りとなると語り伝えられています。

舎脂夫人 (ネパール、1800年頃 Los Angeles County Museum of Art)

 【原文】

巻5第30話 天帝釈夫人舎脂音聞仙人語 第三十
今昔物語集 巻5第30話 天帝釈夫人舎脂音聞仙人語 第三十 今昔、舎脂夫人と云は天帝釈の御妻也。毗摩質多羅阿修羅王の娘也。仏、未だ世に出給はざる前に、一の仙人有けり。名をば提婆延那と云ふ。帝釈、常に其の仙の所に行て、仏法を習ひ給ふ。

【翻訳】
西村由紀子
【校正】
西村由紀子・草野真一
【協力】
草野真一

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