巻六第三十二話 天に生まれることより蓮華蔵世界への転生を望んだ僧の話

巻六(全)

巻6第32話 震旦僧霊幹講花厳経語 第卅二

今は昔、震旦(中国)の隋の時代、一人の僧がありました。名を霊幹といいます。常に華厳経を講じていました。遠方の人も近在の人も、多くの人がやってきて、霊幹の講義を聞いていました。

開皇十七年(597)、霊幹は重い病にかかり、たちまちに死にました。その後、蘇生して語りました。
「私は兜率天に上り、休・遠(慧遠)、二人の法師を会った。二人は並んで華の台に座り、光明を放ちながら私に語りました。
『おまえは私たちの多くの弟子とともに、この天に生まれなさい』」

翌年、霊幹はふたたび病にかかりました。常に華厳経に描かれた蓮華蔵世界を観じ、同時に兜率天宮を感じて、病にふせりながら、眼を常に上にして、人に向かうことはありませんでした。

童真という弟子がありました。霊幹の病を看取るため、常に傍にありました。霊幹は童真に語りました。
「今、青衣の童子がやってきて、私を兜率天宮に導いている。しかし、天の楽は永遠ではない(天人五衰)。輪廻から抜け出ることはできない。ならば、ただ蓮華蔵世界を期すべきだ」
童真、これを聞き、しばらくのちに霊幹に問いました。
「今、何を見ているのですか」
「たくさんの水をたたえた中に、蓮華が咲いている。車輪のようだ。霊幹はその上に座っている。願いはかなえられたのだ」
そう語ってすぐに息絶えました。

霊幹は開皇十八年(598年)正月、寺で命を終えました。齢七十八。終南山で火葬にふされました。そう語り伝えられています。

蓮華蔵世界(茨城県牛久大仏胎内)

中国における『華厳経』の研究講説/佐藤心岳

【原文】

巻6第32話 震旦僧霊幹講花厳経語 第卅二
今昔物語集 巻6第32話 震旦僧霊幹講花厳経語 第卅二 今昔、震旦の□の代に一人の僧有り。名を霊幹と云ふ。常に華厳経を講ず。遠近の人、皆来て、此れを聞く。 而る間、開皇十七年と云ふ年、霊幹、身に重き病を受て、忽に死ぬ。其の後、活(いきかへり)て、語て云く、「我れ、兜率天に上り行て、休・遠、二人の法師を見るに、並て...

【翻訳】 西村由紀子

【校正】 西村由紀子・草野真一

巻六第三十一話 手洗い水を受けた虫が天人に生まれ変わった話(華厳経の不思議)
巻6第31話 天竺迦弥多羅花厳経伝震旦語 第卅一 今は昔、天竺の執師子国(スリランカ)に一人の比丘(僧)がありました。名を迦弥多羅(かみたら)といいます。第三果(聖者の四つの階梯の第三)を得た人です。震旦(中国)では能支と呼ばれました。 ...
巻四第二十六話 無着の神通力が世親を改心させた話
今昔物語集 巻4第26話 無着世親二菩薩伝法語 第廿六今は昔、仏滅後九百年のころ、中天竺の阿輸遮国というところに、無着菩薩という聖人がいらっしゃいました。智恵甚深、弘誓広大でした。夜は兜率天に昇って弥勒の御許で大乗の法を学び、昼は閻浮堤(...

【協力】株式会社TENTO・草野真一

小学生・中学生・高校生向けプログラミング教室・スクール TENTO
TENTOはオンライン授業を中心とした、子ども向けプログラミング教室です。TENTOでの学習は、プログラミング業務経験者や、ソフトウェアの研究や開発に携わる大学生・大学院生がサポート。開発現場を知り、開発技術を熟知しているからこそ、より現実に沿った、活きたプログラミングの知識を獲得できます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました