巻六第四十三話 浄土教の祖・曇鸞大師の話

巻六(全)

巻6第43話 震旦曇鸞焼仙経生浄土語 第四十三

今は昔、震旦(中国)のの代に僧がありました。名を曇鸞といいます。震旦の仙経(不老不死を説いた道教の経典)十巻を伝え得て、これを見て、「長生不死の法はこれに勝るものはない」と深く思い、閑かな所に隠れ住み、もっぱら仙術を学んでおりました。

曇鸞

その後、曇鸞は三蔵菩提(菩提流支)に会い、問いました。
「仏法の中に、この国の仙経より優れた長生不死の法はありますか」
三蔵は驚いて答えました。
「この国のどこに長生不死の法があるというのか。たとえ、寿命を延ばすことができたとしても、いずれ命が尽きることは疑いない」
観無量寿経を曇鸞に授けて言いました。
「この大仙の法を修行すれば、永遠に生死を離れて、解脱を得ることができる」

曇鸞はこれを聞いて悔い悲しみ、火をつけて仙経を焼いてしまいました。その後、みずから命が終わることを知って、香炉を取り、西方に向かって仏を念じ、命を終えました。

そのとき、空中に音楽が響き、西から来て、しばらくして帰りました。世の人がこれを聞いて語り伝えられています。

『仏説観無量寿経』現存最古の活字印刷物。

【原文】

巻6第43話 震旦曇鸞焼仙経生浄土語 第四十三
今昔物語集 巻6第43話 震旦曇鸞焼仙経生浄土語 第四十三 今昔、震旦の斉の代に僧有り。名を曇鸞と云ふ。其の人、震旦の仙経十巻を伝へ得て、此れを見て、「長生不死の法、此れに過たるは非じ」と深く思て、閑なる所に隠れ居て、専に仙術を学ぬ。

【翻訳】 西村由紀子

【校正】 西村由紀子・草野真一

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