巻二十第二十五話 乞食を打って報いを受けた人の話

巻二十(全)

巻20第25話 古京人打乞食感現報語 第廿五

今は昔、奈良に都があった時代、一人の人がありました。愚かな心をもち、因果(仏の教え)をまったく信じませんでした。

ある日、乞食の僧がやってきて、その人の居室に至りました。その人は乞食を見ておおいに怒り、打とうとしました。乞食は逃れて、田の水の中に走り入りました。その人はさらに追いかけました。乞食は呪を誦して、「本尊よ、助け給え」と念じました。

すると、この人はたちまち縛られました。身体を東西にくねらせ、倒れました。そのすきに乞食の僧は逃げ去りました。

その人に二人の子がありました。父が縛られたのを見て、「助けよう」と考え、僧の坊に行き、僧に請いました。僧は言いました。
「どうして私を請うのか」
理由を述べると、僧は恐れて行こうとはしませんでした。しかし、二人の子は父を助けようとして、さらに強く請うと、僧はついに立ちました。父は狂い迷っておりました。

僧が法華経の普門品(観音経と呼ばれる)を初の段を誦すと、父の縛は解かれました。以降、父は心をつくして信を発し、僧を礼拝するようになりました。二人の子は喜び、僧を礼拝恭敬しました。

たとえ乞食に見えても、それをあなどって打つなど、戯れであってもしてはならないと語り伝えられています。

【原文】

巻20第25話 古京人打乞食感現報語 第廿五
今昔物語集 巻20第25話 古京人打乞食感現報語 第廿五 今昔、古京の時に、一人の人有けり。心愚にして、因果を信ぜざりけり。 而る間、乞食の僧有て、其の人の室に至れり。其の人、乞食を見て、嗔を成して打むと為れば、乞食、逃て、田の水の中に走り入るを、此の人、追て打つ時に、乞食、持(たも)つ所の呪を誦して、「本尊助け...

【翻訳】 草野真一

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