巻十七第三十六話 女が髪に猪の油をつけていることを見抜いた行基の話

巻十七(全)

巻17第36話 文殊生行基見女人悪給語 第卅六

今は昔、行基菩薩という聖がありました。五台山に住むといわれる文殊菩薩が、わたしたち衆生を利益するために、行基として生まれなさったのです。

而るに、古京(奈良)の元興寺の村に、法会を開く人がありました。行基菩薩をお招きして、七日の間、法を説いていただきました。あたりに住む道俗男女は、みな集って法を聞きました。
その中に、一人の女がありました。年若く、髪に猪の油を塗って、人の中にまじって法を聞いていました。

平城京の元興寺の模型(奈良市役所)

行基菩薩、この女を見ていいました。
「とても臭い。あの女は頭に血肉を塗っている。すみやかにその女を追い立てなさい」
女はこれを聞くと、とても恥じて、出ていきました。見ていた人は、やはり菩薩は只人ではないと言い合いました。

凡夫(ふつうの人)は、油を見分けることはできません。しかし、聖人の明眼にはその油が猪からとったものであることがわかったのです。やはり行基菩薩は文殊が化身として日本にあらわれたのだと語り伝えられています。

五台山(中国山西省)

【原文】

巻17第36話 文殊生行基見女人悪給語 第卅六
今昔物語集 巻17第36話 文殊生行基見女人悪給語 第卅六 今昔、行基菩薩と申す聖在す。此れは五台山の文殊の、日記の衆生を利益せむが為に、此の国に行基と生れ給へる也。 而るに、右京の元興寺の村に、法会を行ふ人有て、行基菩薩を請じて、七日の間、法を説かしめけり。其の辺の道俗男女、皆来集て法を聞く。其の中に、一人の女...

【翻訳】 草野真一

【解説】 草野真一

短いがさまざまな示唆を与えてくれる話。髪を油で調える習俗は奈良時代には発達しており、油に動物由来と植物由来があることも理解されていた。行基は中国五台山に在るとされる文殊の生まれ変わりとして信仰されていた。

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【協力】ゆかり

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