巻六第四十六話 薬師経の力で治癒した話

巻六(全)

巻6第46話 震旦張謝敷依薬師経力除病語 第四十六

今は昔、震旦(中国)の唐の時代に、張謝敷(ちょうしゃやぶ)という人がありました。とつぜん病にかかり、かぎりなく辛苦悩乱しました。

そのとき、妻は思いました。
「この病は人の力で治癒できるものではないだろう。ひたすらに三宝(仏法僧)に祈祷しよう」
深く心に決め、家を掃き清め、多くの僧を請じ入れ、香をたき、華を散じて、七日七夜『薬師経』を転読させました。

七日めの夜、謝敷は夢をみました。僧たちが経巻で我が身をおおっていました。夢から覚めた後、病は平愈して、痛むところはありませんでした。

謝敷は思いました。
「これはひとえに、経の威力で平愈したのだ」
いよいよ信を発しました。

思うに、経の文に「一経其耳 衆病悉除」(ひとたびその名を耳にせば、病はことごとく除かれん)と説いている薬師仏の誓いそのものです。末世の人は病を得たならば、もっぱらこの経を転読すべしと語り伝えられています。

薬師如来坐像(香川県善通寺市善通寺)

【原文】

巻6第46話 震旦張謝敷依薬師経力除病語 第四十六
今昔物語集 巻6第46話 震旦張謝敷依薬師経力除病語 第四十六 今昔、震旦の唐の代に、張の謝敷と云ふ人有り。忽に身に病を受て、辛苦悩乱する事限無し。 其の時に、其の妻有て思はく、「此の病、当に人の力及ばじ。然れば、偏に三宝に祈祷すべし」と、深く思ひ得て、家を掃ひ清めて、衆僧を請じ入れて、香を焼き、華を散じて、七日...

【翻訳】 西村由紀子

【校正】 西村由紀子・草野真一

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